土の健康にカバークロップ(施設栽培編)
土が植物を育てるのではなく、植物が土を育てる。逆じゃないの?と思われる方もおられるかもしれませんが、石や岩では植物は育ちません、土というのは生命体の塊で生きています。その基本は植物の光合成(炭酸同化作用)による炭水化物で、すべての生命のエネルギーになっています。
カバークロップを利用して土の健康を取り戻すリジェネラティブ(大地再生)農業に係りはじめたことをきっかけに、和歌山や九州地方の施設栽培の夏の土作りにもカバークロップを取り入れようと声をかけた農家さんたちが、取り組みはじめてくれています。
7-8月の夏の間に前作の残渣を片付けて、太陽熱処理をする方もいます。ただ、水はけのよい土壌では、水がたまらないので太陽熱処理ができないということも聞いていました。そのようなケースでは、土壌へ投入する炭素量を大雑把に計算して、堆肥を入れたり、米ぬかボカシ、モミガラ、竹チップや木チップなどをミックスして、最終的なC/N比を20~25に設定するようなこともしてきました。ただ、これも炭素源を確保し投入するのは、なかなか大変です。
そこでカバークロップの登場です。しかもミックスで。例えば、ソルガムは2mの高さまで生長させた場合、C/N比で40程度になります。バイオマス量としては、地上部の乾燥重量で1tほど、地下の根はその3~4倍程度と言われています。土壌の炭素を増やすのにこれほど適したものはないのですが、あまり普及していません。
バイオマス量の確保ならイネ科が最適です。夏ならソルガムが選択肢のひとつになります。C4植物のソルガムは、C3植物なら萎れてしまうような高温と強い太陽光を受け止めて生長を続けます。そしてカバークロップは単一種ではなく、ファミリー(科)を複数種で混ぜて播種することで、植物の多様性、土壌生物の多様性が高まり、土の健康に寄与します。
※写真は2023年夏のミックス。ヒマワリ、ソルガム、へアリーベッチ、クロタラリア、マリーゴールド。
夏のカバークロップでは、イネ科のソルガム、キク科のヒマワリなどが代表的ですが、マメ科の代表格のへアリーベッチは夏には向かないので、クロタラリアやセスバニアなどを選ぶこともできます。マメ科は根粒菌が共生して窒素固定をしてくれます。基本的にカバークロップは無施肥、または前作の残留している肥料分で育ててることがポイントです。そして、根を深く伸ばすことで、土壌の団粒構造をより深くすることがポイントです。
※2024年はソルガムと夏向きのマメ科マングビーンズを混ぜてGONBEIで播種。ヒマワリの種は別で手播きしました。
『土を育てる』(NHK出版)の著者ゲイブ・ブラウン氏の土の健康の6つの原則の中で、生きた根を保つこと、多様性、土を覆うなどの他に、土の攪乱を最小限にするという原則があります。カバークロップを刈り倒した後のすき込みにも注意が必要です。一度モアーなどで刈り倒し、枯れるまで放置します。夏のハウスなら3日程度で枯れていきます。その後、5㎝くらいの最低限の深さでロータリーなどで整地します。深く起こしてしまうとせっかく植物の根が作ってくれた団粒構造を一気に壊してしまうことになるため、ここは細心の注意が必要です。
上の写真は、マングビーンズの発芽した状態です。実はこのマングビーンズは北海道長沼町のマオイカバーシードから分けてもらった夏向きのマメ科の種で、播種当日にキトサンとフルボ酸で種子処理をしてから和歌山の農家さんへ持って行きました。これは播種後3日目の状態です。発芽促進効果を実感しました。未処理のタネに比べて、発芽がかなり早まりました。
※ランドグリーンPRO1L用
※キトサン200倍、フルボ酸100倍の希釈液に3分浸漬して、その後自然乾燥。
播種が終わったら、潅水チューブを戻してしばらく潅水します。
こんなにも根が張っていて、地上部に近いところは団粒構造ができています。根が届く先に向けて液体炭素が送られて、そこでも微生物が団粒を作ってくれます。バイオマス量だけでなく、団粒構造を作って維持することが大切です。
最後はモアーで細断して、地表で枯らします。この後にできるだけ土をかき乱さないようにするための工夫は、まだ課題がありますが、一歩ずつ進めて行きましょう。
※ここで紹介させていただいた写真は、ひとつの圃場ではなく、和歌山県、佐賀県、長崎県の農家さんのものです。