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炭素源として米ぬか施用が微生物叢を変化させ病原菌を抑制する

ジャガイモそうか病の病原菌は、Streptomyces scabieiやStreptomyces turgidiscabiesという放線菌です。そのため、「放線菌が増えると、ジャガイモそうか病が増える。」そんなイメージを持っている方は少なくありません。しかし、実際の土壌ではそう単純ではないことを示した、とても興味深い研究があります。


2016年、農研機構北海道農業研究センターを中心とした共同研究グループは、「米ぬか施用によるジャガイモそうか病の抑制メカニズム」を明らかにしました。※下記参照




図1の解説

この図は、「米ぬかを施用すると、ジャガイモの根の周り(根圏)の細菌がどのように変化したか」を示しています。

図中に出てくる non と RB の意味

non:米ぬかを施用していない区(対照区)

RB:米ぬかを施用した区(Rice Bran=米ぬか)

つまり、この2つを比較することで、米ぬかが土壌微生物にどのような影響を与えたかが分かります。


図Aでは、青い四角()が無施用区(non)、薄い青色の四角()が米ぬか施用区(RB)です。同じ処理区の点は近くに集まり、異なる処理区は大きく離れています。これは、米ぬかを施用すると、ジャガイモの根圏に生息する細菌群集全体が大きく変化したことを示しています。つまり、米ぬかは一部の微生物だけでなく、土壌の微生物叢そのものを変化させたことが分かります。


図Bは、放線菌(Streptomyces)のそれぞれのグループ(OTU)が、米ぬかによってどのように変化したかを示しています。

青い棒(non):米ぬかなし

薄い青の棒(RB):米ぬかあり


もし薄い青の棒が濃い青の棒より高ければ、その放線菌は米ぬかによって増えたことを意味します。逆に、高さがほとんど変わらないものや減少するものもあります。つまり、米ぬかによって放線菌全体が増えたのではなく、特定の放線菌だけが選択的に増えたことが分かります。


特にOTU1とOTU2は米ぬか施用によって大きく増加しています。一方、他のOTUはほとんど変化していません。この結果は、「放線菌が増える=そうか病が増える」ではなく、病原菌と拮抗する有益な放線菌が選択的に増えた可能性を示している重要なデータです。


※研究体制(2016)について

  • 鹿児島県農業開発総合センター(実際の圃場試験・病害評価)

  • 理化学研究所 バイオリソースセンター(RIKEN BRC)(微生物解析)

  • 農研機構 北海道農業研究センター(NARO)(共同研究・解析)

論文の責任著者(Corresponding author)は池田成志(Seishi Ikeda)博士で、所属は農研機構 北海道農業研究センター(現在の北海道農業研究センター)となっています。

以上


Table4 数字は負の相関です。数字が−1に近いほどその菌が増えるほど病気が減ることを意味します。

最も高かったのがStreptomyces放線菌、つまりStreptomycesが多い土壌ほど、そうか病は少なかったということです。次が植物生育促進根圏細菌のBurkholderia(バークホルデリア属)やChitinophaga(キチノファーガ)などです。

Streptomyces −0.902



米ぬかを施用すると、そうか病は減少しました。九州地方では昔から、「米ぬかを施用するとジャガイモそうか病が減る」という経験則が知られていました。この研究では実際に圃場試験を行い、米ぬかを施用した区では、そうか病の発病が大きく減少しました。ところが、土壌中の放線菌は、むしろ大幅に増えていたのです。普通に考えれば、放線菌が増えたなら、そうか病も増えるのでは?と思いそうですが、結果は逆でした。


研究チームは16S rRNA解析を用いて、根圏微生物を詳しく調べました。すると、米ぬかを施用した土壌では、根圏の微生物群集そのものが大きく変化していました。さらに、増えていた放線菌を分離して培養すると、多くの菌株がジャガイモそうか病菌(Streptomyces scabiei や S. turgidiscabies)の生育を阻害することが分かりました。


※16S rRNA解析とは

土壌には1gあたり数十億個もの細菌が生息しています。しかし、その多くは培養できないため、昔はどんな細菌がいるのか十分に調べることができませんでした。


つまり、増えていたのは病原菌ではなく、病原菌と拮抗する放線菌だったのです。さらに、それらの放線菌を実際のジャガイモ圃場へ接種すると、そうか病の発病が抑えられることまで確認されました。


もう一つ興味深い結果があります。米ぬか施用によってキチン分解菌(Chitinophaga/キチノファーガ)という細菌が約5倍に増加しました。Chitinophagaは「キチンを食べる」という意味の名前を持ち、土壌中では菌類由来の有機物や複雑な炭素化合物を分解する能力を持つ細菌です。Chitinophaga属の多くは、 キチナーゼ(キチン分解酵素)、セルラーゼ(セルロース分解酵素)、キシラナーゼ(ヘミセルロース分解酵素)、ペクチナーゼ(ペクチン分解酵素)などを持ち、植物残渣や菌類由来の有機物を分解する能力が高いことが知られています。


Chitinophaga(キチノファーガ)

キチンだけでなくセルロースやヘミセルロースなど植物由来の有機物も分解する能力を持つ土壌細菌の一群であり、土壌の炭素循環や健全な微生物生態系の形成に重要な役割を果たしています。



この菌が直接そうか病菌を攻撃したことは証明されていません。しかし、この細菌が多い圃場ほど、そうか病の発病は少ないという強い負の相関が認められました。つまり、米ぬかという炭素資材によって、病気が発生しにくい微生物群集が形成されたことを示しています。


土壌には、 病原菌、病原菌を抑える放線菌、Bacillus、Pseudomonas、Chitinophaga、その他無数の微生物が共存しています。病気が発生するかどうかは、これらの微生物のバランスによって決まります。病原菌が存在していても、それを抑える微生物が十分に働けば病気は発生しません。


炭素資材として土壌に投入された米ぬかが、根圏の微生物叢を変え、拮抗微生物を増やし、病原菌が優勢になれない環境をつくった。その結果として、そうか病が抑制されたと考えられます。


引用:Phytopathology, Volume 106, Number 7





 
 
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